Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

Le snacking/パリのハンバーガー

 フランス人は昼食を2時間ぐらいかけて食べ、ワインも飲み、デザートまで平らげる――そんなイメージは過去のもの。ここ10年ほど、フランス人の生活スタイルは劇的変化を遂げた。1990年代90分だった平均昼食時間は昨年22分。(パリ市による)昼食に革命をもたらしたのがle snacking、英語ではなくれっきとしたフランス語。カウンター買い(=テイクアウト、フランス語ではアンポルテという)のことで、流行スタイルになって久しい。

 スナッキングに代表されるのがアメリカ経由のストリートフード、ハンバーガーだ。パリではここ数年、ハンバーガーが爆発的ヒットして、今や殆どのレストラン、カフェのメニューでハンバーガーが置かれている、とはフィガロ紙の記事。さらに2012~13年頃にかけて話題となったのが移動式ハンバーガー屋さん。「フードトラック」という。

 立役者はアメリカ・カリフォルニアからやってきた30代の女性、クリスティン・フレデリックさんによる「Le Camion qui fume(ル・キャミオン・キ・フューム)」。パリの有名料理学校を出て、パリに本物のハンバーガーを、と一念発起。トラックで毎日場所を移動し、販売場所はHPやツイッター、SMSを通して発信、という「神出鬼没作戦」が人気に拍車をかけた。続いてサンフランシスコ出身のジョーダン・フィルダーさんの「Cantine California(カンティーン・カリフォルニア」がヒット。肉、たまご、小麦粉などBio食材を売りに、職人魂を前面に出した。タコスやメキシコ料理も取り入れ、アボガド入り“オバマ”といったネーミングバーガーで洒落を利かせている。12時前に並んでも13時には「売り切れ御免」となりますます人気急上昇。よそ者に負けられないと、ついに純フランス産フードトラックが誕生。「Le Refectoire (ル・レフェクトワール)」、フランス産ビーフ、質のいい国産フロマージュ(チーズ)にこだわり、対抗した。

 美食の国の星付きシェフ達も参入の動きあり。テレビの料理番組「Top Chef」で有名になったブリス・モルヴァンさんは、2012年、サンマルタン市場に屋台をイメージした「オ・コントワール・ド・ブリス」を開店、既にハンバーガー、ニース風ホットドックをメインに店の8割を売りあげた。2014年にはマーク・ヴェイラさんという有名シェフが8区でトラックレストランを始めた。パリ発着の空の上では、機内食にもなった。

 私自身は肉を食べないのでこれらを利用したことはない。スシブームの終わった後、目新しいものに飛びついた感がある。そこにソーシャルネットワークが追い打ちをかけたわけだ。10年ぐらい経ったら「ハンバーガー?なんだっけそれ?」みたいなことになっているのかも知れない。

 トラックでの移動販売という形式だけなら、以前からコーヒー屋、菓子、パン、チーズなど存在し決して目新しいものではない。もし今、このパリで、たった一台だけ、自分の好きな食品トラックが駆けつけてくれるとしたら、あなたは何を所望しますか。

 私なら「豆腐屋さん」か。小学校低学年ごろまでは、近所にラッパを吹いてリヤカー引いた豆腐屋さんがやってきた。ラッパが聞こえると、祖母に小銭を何枚か渡され、私は走って表に出て行って、「絹一丁、木綿一丁下さい」と、覚えたセリフを、舌をかみかみ言った。引っ越した先は、リヤカーの豆腐屋さんの来るような街ではなかったが、近所に豆腐屋さんがあった。片足の悪いおばあさんが、おじいさんと二人で店をやっていた。お風呂場みたいに大きなステンレス製の水タンクの中から、手ですくってそれらを丁寧にパックに入れてくれた。おばあさんの手の上で、とうふはまるで生きているみたいだった。おばあさんの言葉を聞きわけて、しゃんとして、掌でおとなしく切り分けられた。家にかえって、私がいくらそっと取りだそうとしても、ぐしゃっと形が崩れてしまった。

 美食の国パリで、豆腐を思う。「豆腐ハンバーグ」なんて日本じゃメジャーだけれど、パリでは「ヘルシー」で押したところで、まあ厳しいだろう。気候と原材料の問題もある。Tofeはそのままフランス語にもなっている。トラックは、少女の思い出までは運べない。