Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

バスティーユの夜は更けて 

 ここ連日、パリ11区のバスティーユ周辺に通っている。オペラ座のバスティーユ(バレエなどやるガルニエ宮ではないもうひとつのほうです)のあるところ。歴史的に言えば、フランス革命の発端となったバスティーユ襲撃事件(1789年7月14日)のあった広場。中央にはあの有名なオブジェがそそり立ち、周辺はカフェやバーで遅くまで賑わっている。これまでなじみのあるサン・ミッシェル、カルチェラタンの学生然とした雰囲気とも、シャンゼリゼあたりの高級感とも、モンパルナス周辺の芸術家風の香りとも全く違う。もっと「民衆」っぽい雰囲気がぶんぶん漂っている。

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 どうしてそんなところに通い詰めているかというと、今度こそ、本当に、ほんとうの意味で「ダンス道場めぐり」を開始したからだ。ただのジムののダンスクラス巡りではなくて。ちゃんとしたパリのダンススタジオでプロのレッスンを受けないとどうしようもないと思ったわけだ。

 ここに至るまでのいきさつは多々あるがまあ早かれ遅かれこうなったと思う。一言で言うと、ジムとはスポーツの延長であり、本気丸出しでダンスをやりたいと一気に火がついたからである。私より7つ年上のプロテニスプレイヤーのクルム伊達公子なんて、引退12年後、37歳で現役復帰して、今もバリバリ活躍中である。年齢を理由に諦めるなんて、全く話にならない。肉体的はまだ成長を遂げることが可能だ――そう強気で言い聞かせても、40の分水嶺を越えてしまったら、何かが可能ではなくなるかもしれない。とにかく今、先のことは考えず、全力で踊りたかった。パリの最先端のダンスシーンで踊りたかった。今、パリでいっちばん輝いてるダンサーは誰だ?最高の場所は、ダンスはどれだ?

 幸いにも、ジムのクラスで身体はどんどん昔の感覚を取り戻しつつあった。私はまだ、フランスのダンスの何ひとつ、見ていない、感じていない。とことん追求して、もしフランスでダンスは『バレエ』か『コンテ』であり――たぶん、私が求めるアメリカンスタイルのジャズ、モダン、ストリートダンスであれば究極のところ、NY帰りのダンサーたちの受け売りでしかないのだとしたら、私はフランスにしがみついている理由なんてあるんだろうか?別にNYだって小説やエッセイは、かける。とすると、殆どこれは自分の滞在意義をかけた「道場巡り」ダンス・シーン開拓道中になるわけである。

 フランスではダンス教師は国家資格となっていて、ダンスクラシック(バレエのこと)、ジャズ、コンテンポラリーの3つの資格をとることになる。これがなければどんな小さな教室やクラスであっても「教師」を名乗って教えることはできない。養成所で有名な学校がパリに3か所。(ダンス・マレはのぞく)そこはスタジオも兼ねていてオープンクラスもあるので、とりあえず全部に足を運んでみた。

 どのスタジオであっても、押さえるべき基本は「大御所3人、若手3人」である。ディレクター(代表)や、フォーメーション(研修)担当の大御所の先生(たいてい40~50代)、ダンサーとしての第一線は退いているけれど、教師として豊富な経験を持ち後進を育てている3人をチョイスする。他方で、現在、パリダンス界をけん引する若手(20代)はどうか。彼らはビジュアル世代だから自らのアピールに余念がなく、情報収集には事欠かない。ユーチューブやHPでの人気度、どんな曲をつかって、誰(主に歌手、ミュージカルなど)に振りつけているか、国内、海外受賞歴、TV、CM放送歴、ニューヨークでの活動などを参考に、異なる芸風の若手3人を押さえてみる。ただしダンサーとしては凄くても教えるほうとなるととことん興味がなかったり、逆に学校を出てすぐに教えることに情熱を燃やして、自身の振り付けは殆どクラス向け、みたいな先生もいるので、このあたりのバランスはユーチューブとにらめっこしながら見極める。

 情報収集の段階で気づいたのだが、フランスの、バレエではないいわゆるジャズダンスやモダンの情報って、殆ど日本に入ってきていないんじゃないか。「フランス /ダンス/留学」 などと検索しても9割9分バレエの情報しか出てこない。だいたいダンスをやりたい人間はNYに行くわけだ。パリでジャズやモダンを踊ろうという人のほうが稀有。コンテは一応欧州のものという認識があるのか、学術研究分野ならいくつか日本語の検索がヒットするし、人的交流も行われているみたいだけれど。それでも、現代ダンスシーンに関わる殆どは、くうう、悲しいかなフランス語で自力で読み解くしかない。

 このブログ、本来、50記事で本として出版する目的で、最初から原稿の形で書きだしたものだった。が、どうもこれ、「パリの現代ダンスシーンブログ」みたいになりつつある。仕方がない、「いま」この瞬間に、とことんのめっていくことしか自分にはできないから。だから、日本を出たのだから。

 そんなわけで、夜な夜な身体を酷使しています。ちょっとずつまとめて、フランス最先端ダンス事情や、こちらで知った面白い若手ダンサーのクラス、記事をアップしていく予定。