Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

パリダンサー図鑑(5)エキスパート編 ヴァンサン・アンサール Vincent Ansart

 パリダンサー図鑑若手編4人にひとまず区切りをつけて、ここから経験豊富なエキスパート編に入る。

 まずはこの人、Vincent Ansart(ヴァンサン・アンサール)さんだが、スタジオハーモニーのHPを見ても今ひとつ年齢も、彼の経歴も、はっきりしない。彼自身のカンパニーがあり、12年スタジオで上級レベルを教えている熟達者であることだけは分かった。google.fr検索でなんとか引っかかってきたのが彼のインタビュー記事。これをもとにひとつ探ってみるとしよう。

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 実はこの人、若手図鑑(2)で紹介したミカエル・カッサンの師匠とも言うべき人物。多くのduo映像が上がってくる。なるほど、作風がどことなく似ている。

 若い頃の写真はほおがげっそりそげて、どことなくパリ・オペラ座に居た頃のニコラ・ル・リッシュなんかにそっくり。今日ほかのクラスに出た後に彼のIAクラス(アドバンス・プロフェッショナル)を40分ばかりガラス越しに観ていたけれど、本当に厳しそう。笑わないし。ただ意外だったのは練習の内容自体がそれほどきつそうではなかったこと。殆ど「基本中の基本」とも言える動作を丁寧に繰り返し、繰り返している。(いや、やれば相当きつかったかもしれない)

 彼がダンスを始めたのは18歳と非常に遅い。ただ彼は幼いころから両親に連れられてオペラをよく観に行っていた。ショーは彼の近くにいつもあった。そして3年間、ブルーノという振り付け師の(脚注:アリババなど、となっていた。おそらくフランスでは有名な振付家なのだろう)もとでクラシックを始めとするあらゆるフォーメーション(訓練・研修)を納めることとなった。21歳にして彼は自らのカンパニーを立ち上げる。何故そんなに急ぐ必要があったのか?彼は自らのシーンを発見することができたのだ。特定のテーマに対する、自らの仕事に集中するために、それは必要だった。愛、セクシュアリティに関するリアルタイムの時代を書きたかった。そのほか、ピアフとデードリッヒに関するショーなど多数。

 非常に頭の切れる男なのだと思う。ローマ時代の賢帝の一人に居そうな風貌だもん。いわゆる「ダンスバカ」「~~しかできない」「脳みそまで筋肉」系では絶対にない。21で自らのビジネスを立ち上げる才を持ち合わせる当たり、ちょっと踊れて教師資格を持っているそんじょそこらのダンサーとは訳が違う。それほど大きくはないけれど(たぶん弟子のミカエルのほうが身長はある)ギリシャ彫刻的な(?)存在感がある。クラス指導風景より、舞台やショーの動画が多い。コンテとモダンジャズのクラスを持っているけれど、どの振りも非常にアクロバット的で、すみずみまでの高い身体能力が要求される。彼のクラスはその為の身体づくりなのだと思う。特徴的だと思ったのはフランス語シャンソンを多用していることだが、彼のプロフィールによれば「古典からエレクトロニックまで。特定の音楽に固定されない」とあるので、とにかく彼のキャパが広いことの証明であるのだと思う。