Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

Fort comme un boeuf / 牛のように頑丈に――パリで疲労Max

 この一年の疲れがマックスで襲ってきたのか、昨日午後ダンスをしている時に「ちょっと力が入らないな~」と思い始め、全身のだるさが止まらなくなった。おお、これは懐かしい悪寒の兆候。異国で風邪をひいたり、発熱するぐらい不安なことはない。

 あと2週間強で滞在ヴィザが切れるというのに延長のめどの何ひとつたっていない私。オーディションに受かった某有名ダンス学校の登録費・学費は払えず、かといってパリの大学院へ行ってダンスのマスターを取ったり、クリエイティブライティングを学んだりするのもどうなのだ?仕事の一つもなく、そもそもビザがなければ働けず、相談を求めた(←そんなことした私が間違っていたさ)邦人からはことごとく拒絶され、八方ふさがりのわたし。明日からこの異国でどうやって生きてゆくのか。このままだと、不法滞在の道まっしぐらである。

 全身がなまりのように痛く、重く、でも鏡を見るとそこには顔が浅黒くげっそりとした、ずいぶんとこの一カ月で体重の落ちた、ちょっと自分じゃないみたいな自分が居る。五日ほど前には歯が割れ、反対側のかぶせモノをした個所がぐらぐらと動いて日本だったら即歯医者にかけ込んでいる状況だ。こちらでは一年、携帯電話を持たず、予約すら取っていない。(とってもだいたい2カ月先という話)。まあ直接窓口に出向いて、フランス語で予約を取るしかないだろう。ブログのネタがまた一つ増えるわけだ・・・。みんな十万以上だったら日本に帰って治療しているみたいだ。私の場合、もうそんなお金はないから、折れるか抜けるかするまで待つか・・・。

 朝起きてもあまりに風邪様の症状がひどいので(そういう時に限って空は晴れ渡り、さわやかな初夏の様相を見せている)今日行こうと思っていた場所、書こうと思っていたものはいったん棚上げして、午前を休息日に充てる。日本からイザという時のため持ってきた、ビニール袋の薬一覧を取りだす。ほとんど怪我も病気もしたことのない私は、貧相なラインナップしか所持していない。ああ、ほんとうに誰か助けて。24時間のファーマシーはシャンゼリゼの凱旋門近くにあるらしいけれど、そんなところまで辿りつけるわけがない。こうして異国で野たれ死んでゆくのだ。夭逝、というには長生きし過ぎてしまった。だって30代半ばじゃ・・・。なんらかの実績を残していないとカッコ悪くて死にきれない。ねえ、永井荷風先生。(頼れる師を持たないので、代表して選ばせて頂きました失礼をお許しください)

 そんな時に限って、パソコンがウイルスにやられてみたり、アイチューンが固まってみたり、「セキュリティソシアルに加入しろ。ついてはこれこれの書類を送れ」など、わたしの語学力ではいっさい読解不能な文書がフランス行政から届いたりする。来年度の住居更新書類もCAFに送れと3通も通知が来たけれど、居住更新可能かどうかは、6月中旬まで選考結果は分からない。芥川賞とか、フェミナ賞とかゴング―ル賞とか取ってないのに(笑)「作家」を名乗って滞在しているちょっと人より神経のずぶとい日本人創作家を「アーティスト」枠で、正式に認められるのかどうか。このへんもフランスの懐具合が楽しみなところである。

 気合だけでなんとか乗り切ろうと思ったが、一応身体とか、物事には限界というものがある。貧しい薬パッキング袋のなかから、ツムラの漢方薬を取り出してみる。実は黄金色に輝くパブロン様もあるのだが、それはついぞ発熱し、客死一歩手前になった時の「最後の一手」なので、これしきの状態で使ってしまうわけにはいかない、秘宝の薬なのである。さ湯でぐぐっとマズイ漢方を一気飲みした後、ふと気付く。あれ?持ってきたのは「葛根湯」だとばかり信じて疑わなかったけれど、全然違う漢字4文字が書いてある。「小青竜湯」なんだそりゃ。慌ててネットで検索。あ、思い出した・・・。以前、新聞社に勤めていた時がっつりと鼻水が止まらなくなり、仕事に支障が出るほどだったので、会社内の診療所へかけ込み、「とりあえずこのバナビズだけドメデグダザイ」といってもらった薬である。普段薬慣れしていない私は、たぶん「漢方薬とかのほうがいいかもねえ」といって、いかにも面度くせえなあ、といったふうに、おじいちゃん先生がこのピンク色のラインに19と書かれた薬を処方してくれたのだった。有効期限とかあるんだろうか。あるよね、もちろん。でもこれしかなかったから持ってきたし、まあ飲まないより飲んだ方が、今は期待できる精神的効果のほうが大きいだろう。

 で、さらに検索を続けてみてわかったのだが、これって「花粉症・くしゃみ・鼻水」とかにきく薬ですよねえ。その他、呼吸困難、せき、気管支炎。わたし、別に全然そのあたりは大丈夫なんですけどっ!辛いのは今、風邪の初期症状、身体の信じられない節々の痛みと(これは結構懐かしい)頭痛と悪寒とのどの腫れなんですけどっ。でついでに同じサイトで「葛根湯」を見てみると、やっぱり風邪の引きはじめの悪寒、発熱症状にとある。さらに首や肩のこわばり、筋肉、関節の痛みの緩和ともある。こっちのほうが適しているよ、マジで!!こらっ。あと、どう違うのか分からないけれど、同じような症状のところに「麻黄湯」という初耳の種類があり、ふしぶしが痛む風邪に、と表記されていた。日本で、マツキヨがそこにあったらわたし今、これ買ってる・・・。

 フランスの薬って、たぶん物凄く強いんだろうな。日本でさえ市販の風邪薬が強すぎて、どうしても飲まなきゃいけない時は半分に割ったりしてたぐらいだから。あとこっちの内科医はちょっと頭痛が、、、とか、夜眠れなくて、、、でも平気で精神薬をばんばん処方するらしいから(そして飲んでる本人も分っていない)何でもない普通の人が、病院に行って病気にされちゃうって怖い話を聞いたことがある。オランダ並みだ。

 まあ今日の午前はゆっくり復活計画に徹するか。パリへ来て一年、お金や、明日のことを考えない日なんてなかった。カフェのテラスで珈琲飲んでいる人を見て「なんであの人たち珈琲なんて飲めるんだ?」「なんで一日2ユーロも使えるんだ?」と思っていた。毎日、毎日。

 いろいろ詰め過ぎると、反動もそれなりだということ。でも異国で30代女がひとり、生きてゆくには強くなければ進んで行けない。Fort comme un boeuf――「牛」のように頑丈に――。フランス語で、頑固、頑強であることの例えには「牛」を使う。なんだかんだ言っても、さすがの酪農大国、おフランス。

 今週はテニスの「ローラン・ギャロス」。エッフェル塔前の広場は設置された巨大スクリーンの前に、みんなこんな感じ。

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