Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

Yanis Marshall ヤニス・マーシャル2014夏パリ:怒涛のスタージュ実況編〈その4〉2日目モダン「亡き友に捧ぐ」ヤニス天国へのダンス

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 誰?今年のローザンヌコンクールの・・・いえいえ、ヤニスです。正真正銘のヤニス・マーシャル。2年ぐらい前の写真だから少し若い。オネエ系とか「フランスでヒールを履いてビヨンセ踊るダンサー」等々、商品価値としてはこの夏限定〈一発屋〉としての、テレビ始めマスコミ各社の取り上げぶり。

 繰り返すが彼はフランスの国家資格をもったダンサー、国家教師。普段あの服装で、バリバリ英語スピーカーで(NY留学者)、ストリートジャズ教えている。ビヨンセだのマドンナだのガガだの踊りまくったところで、クラシックの膝元「おフランス」、見よこの揺るぎない古典の基礎、基礎、基礎たる実力を!(ちなみにお母様はフランスダンス協会理事)

 ダンサー誰もがこうした訳ではない。むしろ、ヤニスは特異なケース。クラシックは一応やることにはなっているけれど(NY・BDCでは必修)実際のところ、フランスでクラシックに進む子は、幼少より「完全隔離」された修行道が用意され、一般人とは全くの別世界を歩むことになる。だからその意味で、芸術が身近にあるというよりは階級社会の別の側面――すなわち「神に選ばれた子」と「一般のヒト」との歴然とした差をも感じる。コンテ系のクラスでも、それでもやっぱり『えっ』と思うような、ベースの古典テクニックのない人だって多いのだ。クラシックをやって、そこから別のダンスへ転向、という道はあまりないのだろうか。ジャズ、コンテ、他ダンスを始める⇒いちおう基礎もやっとかないと、的にスタジオのバレエクラスが設置されている。半袖短パンで、ひどいところはスニーカーで足を振り上げている。(これは本当のハナシです)日本で言うところのバレエ教室的モラルとか、ルールは全く通用しない。ん?「日本のモラル」ってのも何だかおかしな話だけど。

 サラブレッドのヤニスだからこそ、実は本気でモダン、LyricalJazz(リリカル・ジャズ)をやらせたらすごい、ということは、あまり知られていない。リリカル・ジャズは日本ではあまりなじみがない。幾つか解釈の仕方があるが、音の旋律や特に歌詞に載せ、振付上では「感情表現」を主とする、と言われることが多い。「クラシックとジャズの動きをベースにしたダンス」というのが一般的。幾つか「リリカル・ジャズ」クラスをスタジオでとったけれど、たしかにバレエとモダンの中間ぐらい、という印象。

 ストリートジャズの90分を終え、汗だくTシャツを着替えて同じ教室でモダンに入る。生徒は総入れ替えの印象。「ビヨンセのヤニス様をみた~い」系、あるいはがしがしストリート生徒は前半のみ(モダンは踊れない、やりたくない)、モダンはバレエらしいレッスン着の子が多かった。アシスタントの女の子2人が続行。最初の30分ほどはプリエ、1番から5番までのストリートではやらないクラシックのフロアレッスン、バットマン、柔軟まで、ヤニスはバッチュのつま先、早くなってもきれい。今ストリートの先生でこれちゃんとできる人いるかなあ。あまり甘くなかった。「速く!」「もっと高く」妥協しない。

 ヤニスはこのスタージュ3日間の始まる前日の14日、親友を亡くし深く傷ついていた。フェイスブック上で初の交際宣言をしていたのだが、それを上回る悲しみに暮れたのか、不謹慎だと判断したのか、大反響を呼んだ書き込みは全て削除された。「涙が止まらない、仕事をするのが辛い。人生は不公平だ。あなたが居ないのが理解できない」。公式に本名も出ているのでここで書いて差し支えないと思うが、バティストという12歳年上の友人だ。ヤニスが15,6の頃、つまり初めてダンスでテレビ出演し、ル・ロワ・ソレイユ(太陽王)のミュージカルに出はじめた頃(最年少でミュージカル劇団入り、ダンサーとしての経験を積んできた)からの同郷繋がり。友というより同じ道を行く師であり、親代わりであり、ヤニスをここまで業界に押し上げた、立役者だった。 

 ヤニス公式ツイッターより:This is for you my love Baptiste Oberson. RIP

 C'est très dur de devoir aller travailler quand on viens de perdre un ami proche... Mais bon, ce soir j'ai danser pour toi mon coeur. D'ou tu es je sais que tu me regarde. Bisous Baptiste tu me manques. RIP.

(訳)親しい友を亡くした時に、仕事をしなければならないのは非常に辛い。今夜、僕はあなたのため、愛を踊った。どこにいても、僕はあなたを想っている。友よ、安らかに眠れ――。

 RPIとはお墓などで見られる「ご冥福をお祈りします」や「安らかに」の意。

 振付の時は結構元気だったけど。予め用意はしていなかったみたいだから、インスピレーションで創っていた。「あん。これじゃあtalon(ヒール)のセクシーダンスになっちゃう❤」といって、短パン下げて悶えながら・・・。

 クラシックの上手な二人の女の子に、ヤニスは名前を聞く。「どこから来た?」訛りとかで分かるのかな。「トゥールーズです」彼が先週一週間、コースを持っていたところだ。「ダンスの街だね」彼は普段あんなだけれど、時々びっくりするぐらい、年下の子や、子供にやさしげな表情や気遣いをみせる。(猫にも)昔、誰かにそのように慈しまれた。ちゃんと愛された、守られた、懐かしい記憶があるのだろう。愛された者のこころは、確実に、次の世代に、繋がっていく。 

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YANIS MARSHALL CHOREOGRAPHY EXHALE SHOOP SHOOP ROBIN THICKE COVER LYRICAL JAZZ CLASS STUDIO HARMONIC PARIS from Yanis Marshall on Vimeo.

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 ヤニス、何も心配することなんか、ない。ダンスを通して、皆を楽しませてきた君も、時に踊りは言葉にならない悲しみを伝えられると、もう充分理解しているはずだ。もうここには居ない人に、胸の内を差し出すことができる。こちらとあちらを繋ぐ言語でありうると。君はその胸に一杯に受けた愛を、君を慕ってやってくる誰かに受け継ぐことができる。そんな途方もなく長い道のりの途中にわたしたちはいる。Danceという名の。

 ――素晴らしいことだと思わないか?

 So long as you can sweeten another’s pain, life is not in vain.

 人の苦しみを和らげてあげられる限り、君が生きている意味はあるよ。

 〈その5:リリカルジャズ動画集編へ続く>