Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

昔の本が色あせて見える時

 昨日ふとNYのジャーナリストであり作家であるPete Hamill(ピート・ハミル;1935年生まれ)のエッセイを読んでいた。――ぬるい。最初にこの人を読んだのは20代のはじめ。私がジャーナリストになる前の大学院生だった頃のこと。「人生って悪くない」「街に生きる普通のヒトの、名もなき幸せ」的視点に、多少は心を動かされたかも知れないし、そうでなかったかも知れない。しかし今となっては、それらがすっかり――色褪せて見えた。何が違ってしまったのだろう?

 The Invisible City: A New York Sketchbook 

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 序章でも筆者が断っているように(以下、要約)これは厳密には「報道記事」(ジャーナリズム)ではない。物語であり、短編だ。でもまっとうな「短編小説」と比較などできない。誰がチェーホフの、名画のような作品に、肩を並べられるものか。するとこちらは単なるスケッチである――と。そして『人生における危機の瞬間、愛とその不在、都会の孤独、忍び寄る過去の重み』を事実をもとに再構築した。一度でも新聞を仕事にした作家たち・・・ヘミングウエイ、モーパッサン、モラヴィア、彼らは分かりやすく書く訓練を目指し、タブロイド紙の仕事は彼らの(小説創作への)弊害にはなっていなかったではないか。群衆が個人を放逐した「あの時代」(と、ハミルがいうのは60年代)、戦争やデモより、ささやかなドラマを生きている人々が居ることを知っていた。キング牧師が倒れた時、日向で車を洗いながら妻の浮気にこころ痛めた夫も居たのだ。NYブルックリンは『歴史』と切り離されて生きてきた。歴史からの追放者であり、過去から永遠に切り離されていながら、過去を生きていた囚われの人々。自分の身の上に起こったことを好まなかった。だから私は、ニクソンを書きながら、ささやかな物語を書きはじめた。彼らの短い人生を完璧に書くことなどできない。でも信じてこちらに打ち明けてくれるのだから、限りない優しさを持って接しなければいけなかった(自分で言うなよ、おい)もしこちらが皮肉や薄っぺらな洒脱で冒涜したとしても、彼らは僕に反撃できる武器を持っていないからだ。大好きなNYで生きる人を傷つけたくなかった―――。

 ここまで読んで予感がした。おそらく、私は落胆し、途中でページを閉じることになると。実際その通りになった。

 ジャーナリストを目指して熱い文章修業を繰り広げていた「あの頃の自分」と、実際に12年働いて、そこから「物語」(小説)への転身を目指すに至り、組織も国も出た今の自分とでは全く異なる。それは一言では言い表せないし(まあ正確に言えば、小説家を目指したのが先で、新聞社は単に文章と社会勉強のため、という順番が逆ではあるが)

 「ささやかさ」とか「名もなき」とか、そういったものに惹かれる人もいるのは承知の上だが、個人的には、うんと若いか、うんと歳老いて、死ぬ間際でいい。今、生きているのだから。時代をダイレクトに感じたい、目に見えないものを揺り動かした男たち(女も?興味なし)を記さずして何になる、などと思ってしまう。(笑)歴史と切り離されていることは決して偉くも何ともない。私は「名もなき英雄」という、あのいい方が、反吐が出るほど嫌だ。マスコミが造り上げる「ささやか幻想」。庶民序曲。街の裏側へ行けば「美談」はいくらでも転がっているが、それはほんとうの、ペンの力でも、書き手の人間眼でも何でもない。そのような「定型」を借りている胡散臭さ、がどうにも気持ち悪くて、結局途中で辞めてしまった。〈貧しい小市民を、愛のまなざしを持って、優しく包んで書いてやっている自分が大好き。一方でニクソンも書いてる(権力の象徴ですな)けど何か?(笑)この街が大好き〉いい大人の男が、そんなことを声を大にして公共の紙面で作文するな――というのが、この歳になった私の感想になってしまった。仕方がない。今ならブログでやってほしい。と思ったら本人HPがあった(笑)ご健在。

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 本や、本の価値や、ましてや書き手に、難癖をつけてるわけでは決してない。それだけは断言したい。

 ただ、どんなに優れた本でも、昔いいと思って何万とある中から手に取った一冊に、再び外国で巡り合ったとしても、全ては変わってしまって、それは止められないのだ、ということ。変わったのは私の方で、おそらくそれは、喜ぶべき変化なのだ、ということ。

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