Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

グラナダ1(1)ボヘミアの醜聞 A Scandal in Bohemia

 第一シリーズに戻って、全編感想記録チャレンジ。第1回放映はMyベスト短編。A Scandal in Bohemia。56の短編小説のうち最初に発表。通算では長編の緋色、署名に続く3作目となる。ストランドマガジン1891年7月号。『冒険』収録作。唯一ホームズを出し抜いた「あの女」アイリーン・アドラーの物語。

 【余談】:スキャンダルって日本語で「しゅう・ぶん」って意味なんだ、と衝撃を受けた作(笑)邦題はニュアンス的に異なる気もするけどもはや日本国では定着済み、というのは他に「まだらの紐」(=バンド)など。『醜聞』という日本語の持つ重々しさ。加えて、当初タイトルは「A Scandal of Bohemia」だったという研究が。「in」に変更された理由は? 

 世界的にも人気ランキング常時上位の本作、至る方面から研究がされつくしている。BBC版ボヘミアはアイリーン役が麗しく、脚本がいい。仏語で見た後、UKアマゾンで英仏版を即買い。シャーロックの交感にポイントがあり、伏線もバイオリン曲も秀逸。(つまり21世紀の別ドラマとして楽しめた)モルグのお嬢さんが(アイリーンの死体判別に来たシャーロックに)「なんで・・・顔見ないで分かるの・・・」というセリフは最高。

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 さて話はグラナダ版に戻って。検証個所多し。

 記念第1作だが、撮影は4番目だった。(最初の撮影は「美しい自転車乗り」)というのも、監督がH&Wの友情を重視、役者同士の信頼関係を構築した上で、とこの後の三話を先撮りしてからの撮影だった。入魂の一作。今後全41話に使われるグラナダホームズの冒頭シーン登場。

*物語は「盗賊アイリーンの屋敷侵入」シーンで始まるのも印象的。視聴者に、果敢で知的美女のアイリーンの存在を思わせた導入部。原作に忠実で、なぜホームズが探偵になったか描かれる。

*NHK放映時はカット場面が多かったとか。

*7%のコカインを叱咤するワトソン。これは教育的配慮らしい。

 *初代ワトソン役のDavid Burke。とにかく挿絵に似た容姿の人物が求められたとかで。(1・2シリーズのみ)エキセントリックなホームズ像が優先の初期アグレッシブな制作の中、とかく振り回され役のワトソン。傷ついたり、失敗したり、病んだりするホームズを見守り助言する、包容力溢れる「人格者ワトソン」は3シリーズ以降の二代目の持ち味になった。そのため、とかくこの初代デイヴィドの演じたワトソンはホームズにつっこまれつつ助手なりに頑張るんだけど肝心なところでいつも置いてきぼりを食わされ、視聴者代表として、喜怒哀楽をダイレクトに共有してくれた素直なワトソン像だった。デイヴィッドワトソンはちょっと「軽い」という評が有るみたいだけれど(そら二代目と比べればね)シリーズ初版を固め、あんな非凡な相棒を前にした平凡な男の当惑も、戸惑いも、よく表現されていたと、これは個人的見解。

*ワトソンのナレーションは凄くスイートな声。英語が滑らかで聴きとりやすい。もとは喜劇役者さん。

*ホームズ:精神的沈滞――「平穏など死も同然」「名声など期待しない」そうこなくちゃ。さあ物語の幕開けだ(笑)

Kindly look her up in my index・・・「恐れ入りますが~して頂けますか」の用法ですな。忘れてたよ(笑)あんまり使ったことないけど。ホームズ、ワトソンに対して(わざとだろうけど)こういういい方するんだ。

*ボヘミア国王登場シーン・・・あれで変装したつもりですか・・・ぷっ。最初に見た時吹きだしたっけ。下手な三文役者にしか見えないんだけど・・・。この時ワトソンの握手を拒絶するんだけど、ラストで陛下の握手をホームズが拒絶するから小気味よかったわ。こんな腑抜けのボヘミア王に嫁ぐスカンジナヴィア国姫の眼は節穴か。

*陛下はドイツ語風「エレーナ」の発音。日本語ではアイリーンで統一したのか?

*陛下の一部始終を聞き終え、ホームズ大爆笑。そら普通の神経の人間でも笑うわ。

*「ロマノス」で食事だ――??高級レストラン?ロマノス2世とか4世とか世界史で出てくるけど(関係ないって?)ロンドンにそんな老舗レストランが?だれか教えて~~。

*変装から帰ってメイクを落とす、背筋の美しい白シャツベスト姿の若きジェレミー。こんな姿の五つ星ホテルマンorバーテンが居たら、ひっくり返るわ。6シリーズでは加山雄三みたいになっちゃってたから・・・。

*探偵得意の変装は2度。でも牧師は正典を読んだ時は、もっと紳士っぽいまともな牧師だと思ってた。これじゃただのおかしな、道を外れた宗教家じゃあ・・・。これにだまされ家に引き込むアイリーンってどうなの?

アイリーン・アドラー「30歳」で私、吹きだした。どう見ても口元が43歳の熟女だって(笑)口元はその人間の全てが現れると私は常々思っている。その時々の機嫌のことを言っているのではない。いい時も悪い時も、男も女も、どの国の人間も。これはホームズのネタじゃなく、ブログの地の文で、筆者が書いている。私はだから、人間を観る時、その人が真に信じるに値するかどうか、最後の土壇場で逃げていくやつでないか、ここぞという時に腹をくくった勝負に出られるやつか、口元をみることにしている。間違えたらそれは私の判断ミス。アイリーンの口元は、クレバー・ウーマン(賢い女性)だけれど、腹黒さはあいにく持ち合わせていない、と見た。でもこの熟れっぷりはちょっとなあ。。。(笑)そうか、もう少し若い女優さんだとこの貫禄がでないのか・・・

*27分、アイリーン邸の外でホームズが彼女の歌唱を聞くシーンではっと気付いた。昨夜ホームズは「チャイコフスキーも聴きたいが事件解決までお預けだ」と言ってたっけ。「彼女の声は天使のようだった」クラシックに造詣が深く、自らバイオリンを奏でるホームズが、声楽を聴いて瞬時にその優劣が判断できぬわけがない。聴こえてきた瞬間、彼はまさに「聴き惚れた」のだ。「こいつ、ホンモノだ」と。今は引退したとはいえ、かつてスカラ座をにぎわせたその歌声は、まぎれもなく極上のものであると。それはホームズでさえも酔わせるほどの芸術的価値を持つものだった。これは、ホームズはその時、客観的事実として認識したんじゃないか。それが奇しくも今回の敵であり、はたまた絶世の「男を狂わせるほどの美女」(ホームズ談・たとえだ)ともなれば――ああ、最初に見た時は、このシーンに思い至らなかった!

*ラスト、ホームズが彼女への想いを込めてこの時の曲をバイオリンで弾くのは、もちろん正典になかったシーン。(BBCも似たような場面は踏襲)。

*アイリーンの「あの場面」はDVD表紙にも使われちゃっているけれど(これじゃネタはバレバレではないか)シドニー・バシェットの挿絵そっくり。

*アイリーン、あんな胡散臭い神父が家の前でひと騒動起こしたとして、何をのこのこと家に連れ込むのだ?脇が甘すぎる。私なら「口出さなきゃいいのよ。自業自得よ。人の家の前で死なれでもしたらこっちがとんだ迷惑だわ」とかって完全無視だけど。最後の手紙でも言ってたけど彼女は信仰深い人なのか。神父さまは常に神聖なる人で放っておけなかった?そこがどうも腑に落ちず。「女」という生き物を感じてしまったところ。まあそこにホームズもつけ込んだわけだけど。

*ホームズの「splendid!」(いいぞ!)ってひとことがいい。(怖れ多くて自分では他人に対して使えない・・・)この言葉は、ワンダフルとかアメージングとかエクセレントとか全然違う響きがあるように思う。

*今回はH&Wの二人の協力体制がしっかりと見られるので嬉しい。謎ときやミステリーということでなく。

*ラスト、ホームズは思いっきり言うね。この後に及んで「女王にふさわしい女性だった」とほざき、本質を掴めないおこちゃま国王に大して「陛下とは人間的に階級が違います」と。字幕がここ、ちゃんと「人間的に」って嫌みの部分がしっかり入っていた。字数制限のある中、意図がとりやすく、良かった。

*シルクハット姿のホームズ。いいねえ。

*「彼の冷徹さと愛は反する」。

*バイオリンを奏でるホームズ、暖炉の前のホームズ、美男子、いいねえ。

  File:Granada sh scan holmes0.jpg  

ラスト9分(英語)


A Scandal in Bohemia Part 5 of 6 (Sherlock Holmes) - YouTube