Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

BBCシャーロック/シーズン2-2話:『The Hounds of Baskerville/バスカヴィルの犬(ハウンド』【その1】コメンタリー

 そう言えば、シャーロック/シーズン2は3話の各エピソードで彼が「愛」「恐怖」「死」に立ち向かうんだよ、とDVDコメンタリーで監督が言っていたのを思い出した。なるほどアイリーンの回が「愛」。バスカヴィルでは「恐怖」に挑むコンサル探偵。

 そこで今回はドラマの感想に入る前に、ブログ【その1】として、前から一度やってみたかったコメンタリー記録をまとめてアップ。舞台裏のマル秘ネタや主に制作意図に関して、監督が喋っている内容を邦訳してアップ。字幕が無いので耳だけで聞いたものであるから、ちょっと細かい点については自身がない。ドラマの感想は次回更新【その2】で。

 

 「徹底した合理的思考の持ち主(SH)が”ありえないもの”に直面」したらどうなるか、が今回最大のテーマ。

 正典では、私がグラナダ版記事で前述したように(好みじゃないと徹底的にこきおろしたこの話)1:探偵本人が最後まで現場(ダートムア)にこないからつまらない。2:動物なんて好きじゃない、推理小説に使うな。3:風景描写が素晴らしいと言われるが、サー・コナンドイルにそんなもの求めていない――という極めて私的な理由による。ジェレミーファンには実際こういう声は多いのだ。(私だけではないのだよ、ワトソン君)

 さあ筋金入りのシャーロキアン(オタクともいう)であるBBC監督(モファット、ゲイティス)たち。こうした風潮も当然踏まえ「主人公に『恐怖』を与えるため最初から現場に派遣した」とのこと(笑)。

 

 シャーロック(探偵)の登場とは、これまで「解答」(謎を解く)こととイコール。視聴者にとっては水戸黄門の印籠が出てきたも同然、ああもう終了5分前か、山場もここ、さくさくっと彼の早口の解説で謎がとかれ、悪を懲らしめ、エンディングテーマが流れて終わっちゃうんだな~、みたいな(笑)

 特にシャーロックみたいな天才肌は、出てきちゃったら最後、全部暴かずにはいられないわけだ。「すると物語が成立しなくなってしまうじゃないですか、だからホームズモノって短編が多いんだよね」とモファット監督。す、すごい考察っす。スター3つ(笑)

 だいたい、今回の21世紀BBCシャーロックのキャラ設定は「出てくると場をおかしくする(しらけさせる)し、流れを止めるじゃない?」=あんたが書いた脚本だろ!!!(笑)私は大・大爆笑しましたよ。だから、頭脳キレまくりの合理的SHでなく、動揺し、恐怖におびえる「負」の部分を描くことに成功したかった、とも。

 

 聞いてたらこの人たち(制作関係者、出演者)のドラマや、シャーロックや、もっと深いものに執着し、創造に対する熱い「愛」が感じられて、胸が熱くなってしまった。お金とか、視聴率とか、ましてや自分たちの名声だのくだらないもののために、時間つぶしの番組作ってるんじゃないんだと――この人たち人生かけて昔っからホームズにハマっちゃってて、正典もグラナダ版もマニア腰ぬけに通じてて、だからこの世界(BBCシャーロック)を作り上げることは、彼らにとって「必然」だったとさえ思った

 

 前にバレエでギエムの「必要があるから踊っている、必要がない人間は踊らない」という名言を書いたことがあったけれどまさに彼らも「必要があるから作っている」作らねばならなかった人たちが、何かの糸に引かれて集まって、一つのものを作り上げているんだ――と。

 

 涙出る、でも感情に負けたらダメ(笑)Byシャーロック。この秋、私のテーマ(笑)

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 監督たちの思惑通り、シャーロックは思いっきり「恐怖」に怯え、私たちは「尋常でない」主人公の姿、言動、表情を見ることになる。

 あの理性一筋のシャーロックが、この世に存在しないもの=魔の犬を見た、とか本気で言って震えちゃったりしてる。おかしいでしょう、どう見ても。

 

 ゲイティス監督は(=兼マイクロフト役❤)「暖炉前のシーン(写真)犬に対する推理は出来るんだけれども彼の頭は動いていない。ジョンに『自分』を証明する武器にしている」と語っている。さすが❤お兄様。ゲイティスはもう一つ小説家としての顔も持っている。このドラマでは監督兼・脚本兼・兄のマイクロフト役(兼プレスリリース担当も)やはりドラマへの切り込み方、思考の過程が並みじゃない。「仕事」レベル飛び越えてる。茫然と見あげるしかない、ベン・ネヴィス山みたいな――(すみません、ちょっとマニアックな例えです)

 

 「あり得ないもの」に直面してしまったシャーロック、もちろん「論理的に説明のつく方法で、何か答えを探さなければ」と必死になってる。

 前回はここまで自分を追い詰めず、まだゲームを楽しんでいる余裕があった。「シャーロックは完全無欠じゃないから恐怖を感じている自分に戸惑うんだよ。だから色々かける」と監督。それは彼が若いからで、もっと年をとれば恐怖を認めてしまうだろうとも言っている。グラナダ版なんてジェレミー50~60歳の10年間で演じてたんだよね。ちなみに前話で新聞に「変な探偵」がスクープされて写真にのってた時、ジョンの年齢は37歳って書かれてたみたいだけれど??本当?だとしたらそれよりちょっと若いぐらいだよね。

Sherlock S02E02 The Hounds of Baskerville - sherlock-on-bbc-one Screencap Sherlock S02E02 The Hounds of Baskerville - sherlock-on-bbc-one Screencap

 この墓地会話シーンは撮影初日。今回最も重要な二人の「精神的会話」の駆け引きシーン。コメンタリーでかなりいろんな人にその心理面が言及されていたけれど、ジョンのコートが似合っていないとかひどいこと言ってたのは誰??

Sherlock S02E02 The Hounds of Baskerville - sherlock-on-bbc-one Screencap Sherlock S02E02 The Hounds of Baskerville - sherlock-on-bbc-one Screencap

(写真左:怒るジョン 右:子犬の眼ですがるシャーロック)

 

 レストレード警部は、役者が日焼けしてたので、マイクロフト(兄)が「セリフ作っちゃった」とのこと。しかもこの兄の派遣だったとは・・・「調教師じゃない」と言わせるのだけれど、マイクロフト側にとっては「The・SHチーム派遣」らしい。「シャーロックだってなんだかんだいって嬉しそうじゃん」って誰か言っている。

 

 シャーロックがジョンに「僕が淹れた」コーヒーを渡すシーンで。

友人に親切に振る舞う振りして毒を盛る」。はい、正典にそのままのセリフがあります。『緋色の研究』。しょっぱな、ワトソンがもしかしたら同居するかもしれないSHという人物の「ちょっと変わった」ぶりを聞かされ「もし毒の効用を知りたければ、友人に盛ることも辞さないという――」というあの一文。これを忠実に再現している???!(注:コメンタリーでの言及はありません。あくまで私の感想です)

★★★その他小ネタ★★★

ゲイのオーナーコンビ:最初は女にする予定が、お決まりのこのコードに変更。

ラボで 「マーティン(ジョン)の演技は素晴らしすぎる。また違った意味で現実的な人間たる彼が『恐怖』と闘うさまを見事に表現してくれた」。マイクロフト、いやゲイティス監督からおほめの言葉が。

 

マインドパレス:ネタはダンブラウンの著書らしい。(小説家:ゲイティスの解説による。)この辺は次のシリーズで、バリバリ描かれる

ラストをどう持って行くか:だいぶ悩んだ過程が制作陣から明かされる。結局一番単純な方法にしたけれど、敢えてドラマを「謎とき」に偏らせることはしななかった、と。

「ハウンド」:もちろんゲイティス監督は化学式にしたかった。でもHで始まる式がなかった(すごい、凄すぎる)それでこういう案にした、とのこと。

★ラストは、次のエピソードへの伏線、なんと次の撮影がされていたから(と言っていると思う)ちゃんと計算済みで張れたわけだ――。

 (あ、笑ってるシャーロック――)

 

 ―――【その2】 いつものネタばれ 辛口感想へ続く。お楽しみに!!