Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 フランスのよしなしごとを徒然なるままに

フィナンシェじゃだめだったんですか、プルーストさん(5) 秘密は○○にあり!!!

 マドレーヌ、フィナンシェ、プチフール、そして前回のグフロフと、当シリーズでは「紅茶に合わせて思い出喚起させるのにふさわしい焼き菓子」を取り上げてきましたが、ふと気づいた、あるささやかなポイント。マドレーヌはじめ、これまで取り上げた「焼き菓子」に共通するものって??-- じらせるほどのものでないので手っ取り早く、答から行きましょうーーそれは「バター」本日のテーマです!

Beurre Bordier à la framboise

 『私は無意識に、紅茶に浸してやわらかくなった一切れのマドレーヌごと、ひと匙のお茶をすくって口に持っていった』ある日「私」(語り手)が口にしたマドレーヌの味をきっかけに、幼少期に家族そろって夏の休暇を過ごしたコンブレーの町全体の記憶が鮮やかに蘇ってくる。有名なこのシーン、いわゆる「無意志的記憶」っちゅーのを呼び覚ますきっかけが、昔、日曜の朝に大好きなレオニ叔母さまがくれたマドレーヌなわけですが。

これってなんでカヌレとかフロランタンとか

オランジェットじゃダメだったのかな。チョコでもプリンでも芋けんぴでもよかったわけじゃないですか。私見ですが「卵とバターのたっぷり香る焼き菓子」が重要ではないかと。つまり、ただの砂糖菓子やチョコレート類、紅茶より珈琲にあわせたいビスコッティなど硬質な食感、総じて「あまりバターの香りのしない乾きモノ」「冷製類(アイスやシャーベットなど)」は、それ自体の個性が強すぎたり、紅茶とのハーモニーが効果的でなかったり、やさしい叔母の思い出を喚起させる小道具として適さないわけです。(この辺に美食家として知られたプルーストさんのこだわりが?)。私みたいに「いい年して大人の男がマドレーヌみたいなもん食うなよ、それも紅茶に浸して?勘弁してよ」的な人間は、そもそもふらんす文学を論じる土俵にも立ってません・・・(秘)ハイ、専門家でないので外野で騒いでいるだけです。とはいえ裏づけらしきものはあります。フランスは誰がなんと言おうと「農業大国」。バゲットが美味いのは水とバターと空気が違うから、それと同じロジックでは。

 国産バターについて語りだしたらフランス人、けっこう止まらない。フロマージュ屋さんに入って開口一番、店員さんが「ねえちゃん(正しくは『マダム』意訳しました)、ボルディエのバター入ったよ、どれにする?」私「は?」渡仏後しばらく謎でした。なんでチーズ屋に入った瞬間、バターのハナシになるのか。周りを見渡せば、フランス人もチーズ屋さんでバターとヨーグルト買ってるし。えっ、モノプリ(スーパーね)に「北海道バター」的、愛すべき値の庶民の味方はないの?そこで今回「フランス人が心の底から愛する、これぞ仏産バター・トップ3」を厳選。へえ、バターねえ。そんなに違うもの?それほど料理に差が出るもの?果たして20世紀を代表する大長編に相応しい、幼年期の記憶を堂々呼び覚ます「ああ♪懐かしのバター」一位に輝くのは!??

1)ボルディエ 

http://lejambonbeurre.net/site/wp-content/uploads/2015/04/beurre-bordier.png

Le Beurre Bordier - Site de la fromagée Jean-Yves Bordier - beurres, crèmes, fromages

創業1982年のボルディエ氏のお店。フランスの3つ星レストラン、ビストロでさえもこれを使用するという、有無を言わせぬ堂々グランプリ「ボルディエ」さま。

 昔ながらのバターの製法にこだわって、機械に頼らず全部手作り。色は濃いめの黄色で、見た目も美しい。一口食べて今までバターだと信じていたものは何だったのだろうと。「海草入り」「オリーブ入り」「ガーリック・ハーブ」、いろんな種類があります。おうちでパスタなんかに使った日にゃ、スーパーの安スパゲッティの束が、みるみるうちに星付レストランの味に早変わり。

Le Beurre Bordier - Démonstration du tapage du beurre from La Fromagée Jean-Yves Bordier on こちらはボルディエ氏のバター作りの動画。49秒と短いです。

2・エシレ 

Beurre d'Échiré - Laiterie Coopérative Échiré depuis 1894

  

 ちょっとまったあああ。ボルディエに断固対抗する「エシレ」。目印は爽やかなブルーのロゴ。1894年誕生、パリ万国博で1等賞など華やかな歴史アリ。「エシレ」って村の名前なんですね。大西洋岸のポワトゥー・シャラント地方にあり、温暖な気候、良質の牧草を育む土地。この牧草で育った牛の、しかもエシレ村から半径30km以内の酪農家の乳だけが原料として使われているそう。伝統製法にこだわり1979年にA.O.C.を取得(現在のA.O.P.認証)。

「アンタ、まだボルディエなんて言ってるの?あれは観光客の土産用よ。フランス庶民の食卓はエシレに支えられているのよ」(某マダム)「エシレのほうがクセがないんじゃない?」「理由なんかどうでもいいわ、昔からうちはエシレなのよ。そう決まっているの。アンタもエシレになさい」(某某マダム)あわやボルディエVSエシレの2者対決かと思われたそのとき・・・・

3・パスカル・ベイユベール Fromagerie Beillevaire

beurre baratté, wrapped 

 ついぞ!真打ち登場か!?グーグルフランスで検索すると、ここの評価すごく高い。「ボルディエだのエシレだのあんた達ミーハーったらありゃしない。美食のフランス人のバター愛は、ベイユベールにこそあるのよ」(某マダム)「柔らかさでは一番」「ツウだけが知るホンモノ」「コクとクセがあり欧米人向けなのかも」(某某マダム)。

 ここ、フロマージュリー(チーズ屋さん)なんですね。バターの賞味期限は他より少し短くて2週間。緑色doux(無塩)、赤色demi-sel(有塩)、青色demi-sel croquant(粗塩)とあります。日本では購入できない。フランスでしか買えないという希少価値のスパイスも。 バターってどうやってお土産に持ち帰るんだろう、と思っていたら、チーズと同様、真空パックに。季節によってはそのまま持ち帰ってもokなようです。

《まとめ》ーーーというわけで、以上『フランスの発酵バター三冠王対決、お楽しみいただけましたか?それぞれに個性あり、日本人が「味噌」にこだわるに近いソウルフルな感覚と似ているのでしょうか。(なんか違う?大いに違う・笑)

 結論としては、いずれのブランドにせよ、こんな美味しいフランス産バター使って焼き上げたマドレーヌってだけで、歴史に残る反則技ではないかと。

 バターが不味ければ上手いマドレーヌではありえなかったし、そうなると語り手の「私」も昔の記憶を思い出すなんてなかったはず。すると、この大長編も生まれてなかったわけですよね。って、文の構成としては随分強引な着地ですが・・・(笑)プルーストさんのお口にかなったかもしれないバター、さあアナタはどれに一票?

次回第6回は、ちょっと欧州隣国へ抜け出してみましょう。